発達障害(神経発達症)と斜視の関連性は、現在も研究途上にあります。しかし、臨床や教育の現場では、両者が混在するケースが少なくありません。斜視は遠近感や立体視、両眼視機能に影響を及ぼし、その結果が学習困難や集中力の問題として表面化することがあります。ビジョントレーニングで斜視そのものを治すことはできませんが、視覚機能の改善を支援することは可能です。重要なのは、早期発見・早期治療、そして発達支援に携わる指導者や保護者が正しい知識を持つことです。
こんにちは、アイブレイン塾の田村です。
本記事では、オンライン教室や講演会で特に質問の多い、発達障害(神経発達症)と斜視の関連性、そしてビジョントレーニングの役割について、ビジョントレーナー育成講師の立場から整理してお伝えします。発達支援や特別支援教育に携わる皆さま、そして保護者の皆さまの実践に役立つ視点を提供できれば幸いです。

■はじめに - 発達障害(神経発達症)と斜視の関連性
発達支援の現場で、よくいただく質問が二つあります。
一つ目は、「発達障害と斜視は関係がありますか?」という問いです。
二つ目は、「斜視はビジョントレーニングで治せますか?」という問いです。
私はビジョントレーナー育成講師として、長年スポーツ分野のみならず、子供の視覚機能の支援に関わってきました。その経験から強調したいのは、正しい知識と冷静な視点を持つことの重要性です。
発達障害、すなわち神経発達症と斜視の関連性については、近年研究が進みつつあります。ADHD(注意欠如・多動症)と斜視との間に、双方向の遺伝的関連性が示唆された報告も存在します。しかし現時点では、明確な因果関係が確立されているわけではありません。関連の可能性は指摘されていますが、断定できる段階ではないのが現状です。それでも現場では、両者が併存している子供が一定数いることを実感します。だからこそ、短絡的に結び付けるのではなく、丁寧に見極める姿勢が求められます。
■斜視がもたらす視覚機能への影響と困りごと
斜視は、見た目だけの問題ではありません。視覚機能全体に影響を及ぼす可能性があります。代表的なのは、遠近感や立体感の低下です。また、物が二重に見える複視が生じることもあります。これは両眼視機能が十分に働かないためです。
視力はおおよそ6歳頃までに完成するといわれています。幼児期は、視力を中心に視機能が大きく発達する重要な時期です。この時期に斜視があると、弱視のリスクが高まります。健常な側の目だけが発達し、斜視のある側の目の発達が抑制される場合があるからです。したがって、早期発見・早期治療が極めて重要になります。
斜視による見えにくさは、生活や学習、行動面に二次的な影響を及ぼします。
‐近距離作業で強い視覚疲労が起こり、結果として集中力が低下します。
‐身体の不器用さとして表れ、ボール運動や空間把握を要する活動が苦手になることがあります。
‐読み書き場面で文字が二重に見え、行を飛ばす、読み間違えるなどの困難が生じることがあります。
‐立体感や距離感の不安定さが、学習障害のような様相を示す場合もあります。
発達発育の過程において、「見る力」は基盤的な役割を担います。見えにくさがあると、子供は努力以前の段階でつまずいてしまいます。支援者は、この視点を常に持っておく必要があります。
以下の様子が見られた場合は、見逃してはいけないサインです。
・目線がずれているように見える
・いつも頭を傾けて物を見る
・テレビを極端に前方で見る
・本やタブレットに顔を近づける
・片目を隠すと強く嫌がる
・屋外で片目をつぶることがある
これらは斜視や弱視の可能性を示すサインかもしれません。「発達特性だから」と安易に解釈せず、まず視覚機能の問題を除外する視点が重要です。

■就学時健診では遅い可能性がある - 乳幼児期の検診の重要性
就学前健診は年長の秋頃に実施されます。しかしその時点では、視力はほぼ完成段階にあります。治療効果が限定的になる場合も否定できません。
早期発見の鍵は3歳児健診です。3歳6か月頃に実施されることが一般的です。この時期に斜視や弱視が発見されれば、多くの場合、6歳頃までに改善が期待できると聞きます。
現在では、生後6か月以降から弱視リスクのスクリーニングが可能です。カメラのような携帯型の検査機器により、短時間で測定できます。近視、遠視、乱視、斜視などを客観的に評価できます。乳幼児でも測定可能な点は大きな進歩です。気になる様子があれば、小児眼科や専門医への相談を早めに検討してください。
■斜視はビジョントレーニングで治せるのか?
結論を明確に申し上げます。ビジョントレーニングで斜視を治すことはできません。治療を目的とするものではありません。無資格での治療行為は認められていません。
斜視の治療は、手術、プリズム眼鏡、そして医療機関で行われる専門的な視能訓練などが中心です。これらは眼科医の診断のもと、視能訓練士などの専門職が実施します。一般的なビジョントレーニングとは目的も位置づけも異なります。
では、ビジョントレーニングは無意味なのでしょうか。決してそうではありません。眼球運動や両眼視機能の向上を支援する点で、有効に働く場合があります。私はこれまで、ジュニアアスリートの支援において、ボールが二重に見えると訴える子供に出会いました。適切なトレーニングにより、見え方が改善した例があります。ただし、それは治療ではなく、あくまで機能改善の支援です。治療と混同しないことが重要です。
■治療に対する現実的な理解
プリズム眼鏡は矯正手段であり、斜視そのものを根本的に治すものではありません。手術も万能ではなく、再発や角度の変化が起こることがあります。数年単位での経過観察が必要となる場合もあります。追加手術が検討されるケースもあります。支援者や保護者は、こうした現実も理解しておく必要があります。過度な期待や誤解は、適切な判断を妨げます。
また、外見上は斜視のように見えても、機能的に大きな問題がない場合もあります。目と脳と身体は密接につながり、柔軟に適応します。見た目と機能が一致しないこともあります。しかしそれを判断するには、専門的な評価が不可欠です。自己判断は避け、必ず専門医の診察を受けてください。
神経発達症の特性と、斜視や弱視が併存することがあります。不注意や集中困難の背景に、見えにくさが潜んでいることもあります。いわゆるグレーゾーンの子供にも同様の視点が必要です。発達支援や特別支援教育の現場では、視覚機能の観点を欠かすことはできません。
■指導者・保護者に求められる視点
指導者や保護者は、早期発見の最前線に立っています。発達発育の過程において、見え方は学習の土台です。違和感を覚えたら、まずは眼科専門医に相談してください。特に小児や斜視・弱視を専門とする医師が望ましいでしょう。適切な診断と治療方針を確認することが第一歩です。
乳幼児期の斜視や弱視に関する情報は、まだ十分に広く共有されているとは言えません。今支援している子供が対象年齢を過ぎていたとしても、次の子供たちのために情報を伝えてください。私からのお願いです。発達障害、神経発達症、学習障害の背景に、視覚機能の問題が潜んでいる場合があります。見え方を整えることは、発達支援の基盤を整えることにつながります。
■まとめ:治すのではなく、見極める
斜視はビジョントレーニングでは治りません。治療は専門医の領域です。しかし、視覚機能の改善を支援する役割は担えます。大切なのは、役割を正しく理解し、線引きを明確にすることです。
発達障害と斜視の関連性は、いまだ研究段階にあります。だからこそ慎重さが求められます。そして何より、早期発見・早期治療が鍵となります。3歳児健診の活用と、専門医への早期受診が重要です。
子供の発達発育を守るために、正しい知識を共有し続けたいものです。それが、支援に携わる私たちの責任ではないでしょうか?
※本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的診断や治療を行うものではありません。必要に応じて、医師や専門家にご相談ください。
<オンライン教室のご案内>
アイブレイン塾では、「見る力」を確認・改善・向上するための体系的なビジョントレーニングを学ぶことができるオンライン教室を開催しています。
【発達支援・特別支援】指導者・保護者のためのビジョントレーニング教室
まずは、無料セミナーにご参加ください。「見る力」と子供の発達発育の関連性や基本的なビジョントレーニングの方法が学べます。