ビジョントレーニングの専門家として20年近く活動する筆者は、ある試作品との出会いをきっかけに「見る力」の可能性を伝え続けてきました。欧米では当たり前でも、日本では理解されにくかった視覚機能へのアプローチ。スポーツ分野から始まった実践は、やがて発達の凸凹を持つ子どもたちの支援へと広がっていきます。現場で繰り返し目にしてきたのは、「非常識」と思われがちな変化の数々でした。発達支援に万能な答えはないからこそ、「見る力」という新たな選択肢を届けたい。発達の凸凹を持つ子どもたちが少しでも楽になる未来を信じる、一人のビジョントレーニング専門家の挑戦の物語です。

出会いは、一つの小さな「試作品」から始まった
気づけば、私がビジョントレーニングに深く関わるようになってから、もう20年近い年月が流れていました。
最初から「見る力」を専門にしていたわけではありません。もともとは海外ビジネスのアドバイザーとして活動しており、まったく異なるフィールドに身を置いていました。
転機となったのは、ある日かかってきた一本の相談です。
「新しいトレーニング機器の商品化と販売を手伝ってほしい。」
差し出された試作品は、決して派手なものではありませんでした。けれど、それを手に取った瞬間、理屈より先にこれからの可能性を直感的に感じ取ったのを、今でもはっきり覚えています。
人の動きや判断、集中力の土台となる「見る力」に直接働きかける可能性を、その小さな機器の中に直感的に感じ取ったのです。
欧米では当たり前、日本では「未知」の領域
得意としていた海外市場向けに販売を始めてみると、反応は驚くほど早いものでした。
アスリートのパフォーマンス向上、リハビリテーション、教育現場など、さまざまな分野で活用され、販売は順調に伸びていきました。
一方、日本国内での状況は、まったく異なりました。
「ちゃんと見えていれば問題ない」「目を鍛える?意味があるの?」
そんな言葉を、何度となく投げかけられました。
商品が売れない以前に、考え方そのものが理解されない。
見えない高い壁に、何度も跳ね返される日々が続きました。
売ることより、伝えることが先だった
当初は、知名度や価格、性能の問題だと考えていました。
しかし活動を続けるうちに、もっと根本的な理由に気づきます。
そもそも、日本では「見る力」という概念自体が、ほとんど知られていなかったのです。
視覚と、身体の動き、学習、行動を結びつけて考える文化が、まだ根づいていませんでした。
私は「売る」ことよりも、「伝える」ことに力を注ぐようになりました。
国内の情報だけでは足りず、海外の代理店やユーザーに学びながら、手探りで啓蒙活動を続ける日々でした。

胡散臭さの先にあった、確かな変化
最初にアプローチしたのはスポーツ分野です。
トップアスリートや指導者に声をかけても、返ってくるのは疑いの眼差しばかり。
半信半疑どころか、「怪しい」「根拠はあるのか」——相手にされないことも珍しくありませんでした。
それでも「試すだけなら」と導入してもらうと、結果は明確でした。
判断スピード、動きの正確さ、プレー全体の質が、目に見えて変わったのです。
ただ、その効果が高いがゆえに、秘密兵器のように扱われ、表に出ないという新たな課題も生まれました。
「見る力」は、子どもたちへと広がっていった
新聞やテレビで紹介されるようになると、一般のアスリートやスポーツに取り組む子どもたちにも広がり始めました。
累計販売数は15,000個を超え、高齢者の健康分野からの問い合わせも増えていきます。
そこで私は、仲間を増やすために「販売店権利付きビジョントレーナー認定講座」を立ち上げました。
この選択が、思いもよらぬ次の扉を開くことになります。
発達支援の現場から届いた、想定外の声
講座の説明会をオンラインで開催すると、ビジョントレーニングに興味がある発達の凸凹を支える指導者や保護者から多くの参加がありました。
正直なところ、まったくの想定外でした。
趣旨が違うので申し訳ないと感じて、試験的に『子どもの発達発育と見る力の関連性』という無料セミナーを開催してみました。
結果、なんと1年半で参加者は1,000人を超えました。
そこに集まった声は、どれも切実なものばかりでした。

「見る力」と、発達の深い結びつき
「発達障害のある子どもたちの支援に活かすビジョントレーニングを学びたい。」
「学習障害やグレーゾーンの子が、少しでも楽になる方法を知りたい」
「見る力」が、学習・運動・行動・情緒と深く結びついていることに、何となく気づいている人は、実はたくさんいたのです。
落ち着きがない、板書が苦手、読み書きに時間がかかる——。
そうした困りごとの背景に、視覚機能が関係している可能性を、私自身が改めて現場から教えられたのです。
「神経発達症は先天的な特性」という“常識”
発達障害や学習障害は、神経発達症として説明されることが増えてきました。
「先天的な脳機能の特性で、改善や完治はできない」——それが今の“常識”でしょう。
私は、そのことを否定するのではありません。また、そういう立場でもありません。
ただ、脳は、出生後20年、30年かけて発達するもので、可塑性*を持つとも言われています。そこに新たな可能性が潜んでいるような気がしているのです。
*脳の可塑性 - 脳が経験、学習、損傷などに応じて神経回路のつながりを変化させ、構造や機能を柔軟に変える能力のこと
“非常識”に見える変化が、現場では頻繁に起きている
視線が安定し、姿勢が整い、学習への抵抗感が減る。
「できない」と思い込んでいたことに、「やってみよう」と向き合えるようになる。
こうした変化は、決して特別で稀な事例ではありません。
ビジョントレーニングの現場では、“非常識”に見える出来事が頻繁に起こります。
決して偶然では説明できないのです。
「見る力」に目を向けるだけで、子供も成人も高齢者も楽になる場面は多くあります。
発達の凸凹を持つ子供たちも例外ではありません。
支援の選択肢を、もう一つ増やすために
発達支援や特別支援に、万能な方法は存在しないでしょう。
だからこそ、選択肢を増やすことに意味がある、と私は考えます。
発達支援において、視覚機能は見過ごされがちな要素です。
「見る力」に目を向けるという新たな視点は、子どもだけでなく、関わる大人も楽にすることがあります。
指導者、教職員、保護者が共有できる視点として、「見る力」視覚機能は大きな可能性を秘めています。
これからも続く、“非常識”な挑戦
「試してみたら、こんな変化がありました!」
その言葉が、私を前に進ませてくれます。
目から脳を整えるという視点が、発達支援の現場に根づくことを願いながら、私はこれからも伝え続けていきます。
それが、ビジョントレーニング専門家としての私の使命だと信じて。
※この記事は、情報提供のみを目的としています。医学的なアドバイスや診断については、専門家にご相談ください。
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