追従性眼球運動は、動く対象を滑らかに目で追い続ける「見る力」の基礎となる重要な視覚機能です。神経発達症やグレーゾーンの子供たちでは、この機能の弱さが、学習や運動、日常生活の困りごとにつながることがあります。
こんにちは。アイブレイン塾の田村です。
このブログ記事では、ビジョントレーニング専門家の立場から、追従性眼球運動の概要、困難さが生じる背景、一般的なトレーニングの課題、そして発達支援に活かすための実践的な工夫について説明します。
■神経発達症と「見る力」の関係をあらためて考える
神経発達症とは、一般的に発達障害と呼ばれるADHD、ASD、SLD、DCDなどを含む概念です。これらの特性を持つ子供たちの多くが、「見る力」、視覚機能に何らかの課題を抱えています。学習が進まない、運動がぎこちない、集中が続かないといった困りごとの背景に、視覚機能の未熟さが関係しているケースは少なくありません。
ただし重要なのは、神経発達症の原因が視覚機能そのものにあるわけではないという点です。神経発達症は脳機能の偏りによって生じるものとされており、視覚機能はあくまで関連要因の一つです。しかし、「見る力」と注意、身体の動き、行動調整は密接につながっています。
ビジョントレーニングによって視覚機能の負担を軽減することで、結果的に困りごとが和らぐケースが少なくないのも事実です。この点を正しく理解することが、発達支援や特別支援に携わる指導者や教職員、保護者にとって重要だと感じています。
■日本におけるビジョントレーニングの現状と課題
ビジョントレーニングは、欧米を中心に研究と実践が積み重ねられてきました。日本でも近年、発達支援や特別支援の現場で注目されるようになっています。
一方で、現状では「やり方」だけが独り歩きしてしまう場面も見受けられます。トレーニングの意図や視覚機能の発達段階を十分に考慮せず、同じ方法を一律に行ってしまうこともあります。それでは、神経発達症やグレーゾーンの子供たち一人ひとりに合った支援とは言えません。
ビジョントレーニングは本来、子供の発達発育や特性を理解したうえで、柔軟に工夫していくものだと考えています。その視点を忘れないことが、支援の質を高めるうえで欠かせません。

■追従性眼球運動とはどのような視覚機能か?
追従性眼球運動とは、動いている物体を目で滑らかに追い続ける眼球の動きです。英語では「パスート」とも呼ばれ、視覚機能の中でも基本的な役割を担います。読書で行を追う、板書を見る、ボールの動きを捉えるなど、日常生活のさまざまな場面で使われています。この動きが安定していると、視線が対象から外れにくく、情報を正確に取り込みやすくなります。一方で、追従性眼球運動が不安定な場合、視線が止まったり飛んだりしやすくなります。その結果、情報入力そのものが不安定になり、集中力や理解力に影響を及ぼすことがあります。神経発達症の子供たちの中には、この追従性眼球運動に困難さを持つケースが少なくありません。
■神経発達症で追従性眼球運動の困難さが見られやすい理由
私の経験上、眼球運動の課題は特定の特性に限られません。ADHD、ASD、SLD、DCDなど幅広い神経発達症で観察されます。特に視線を切り替える動きや、追い続ける動きが苦手な子供が多くいます。外見からは分かりにくく、見過ごされやすい点も特徴です。学習障害と診断されていなくても、グレーゾーンとして困難さを抱える例もあります。
神経発達症で追従性眼球運動の困難さが見られやすい理由としては、脳内の情報処理の偏りにより、視覚情報を統合する働きが未熟で眼球運動にも影響が出ることが考えられます。また感覚過敏や注意の向け方の特性が、視線の安定を妨げることもあります。その結果、追い続ける動きが途切れやすくなります。
■追従性眼球運動の問題が引き起こす困りごと
追従性眼球運動が弱いと、滑らかに目を動かせず、視線がカクカク飛んでしまいがちです。そのため、読書時に文字や行を飛ばしてしまうことがあります。書字では、鉛筆の先端を滑らかに追えず、線が曲がる、筆順を守れない、枠からはみ出すなどにつながります。板書を写すのに時間がかかる、書き写しが苦手という訴えも増えます。スポーツではボールの軌道や人の動きを捉えにくく、動作が遅れがちになります。日常生活でも、人や物の動きを追うことに疲れやすくなります。これらは学習意欲や自己肯定感の低下につながる場合があります。

■一般的な追従性眼球運動のトレーニングの方法と課題
追従性眼球運動のトレーニングでは、紙教材や道具を使って、線や点を目で追う課題がよく用いられます。ペンで線をひく、迷路の課題をこなす、なども紹介されています。
ゆっくり動く対象を目だけで追うことを基本として、慣れてきたら動きの方向や速度を変えていくという方法です。
健常児の場合、繰り返しによって向上が期待できます。しかし、神経発達症の子供たちでの場合、集中が続かず、途中で視線が外れることも多く、成果が出にくいのが課題です。やってもうまくできない、向上しないという失敗体験が積み重なると、子供の興味や意欲が低下しますし、特性を考慮せずに進めると、逆効果になることもあるので注意が必要です。
■神経発達症の子供たちへの実践的な工夫
これまでの経験から、特に意識したいポイントを三つ紹介します。
一つ目は、「簡単な内容を、ゆっくり、短時間だけ行う」ことです。まずは、成功体験を重ねる設定が欠かせません。少しずつ、内容、動き、時間を上げていきます。
二つ目は、段階的な取り組みです。
指でなぞる、ペンを使う、目だけで追う、という順で進めると定着しやすくなります。
三つ目は、遊びの要素を取り入れることです。
色や模様のあるボールなどを使うことで、興味と集中を引き出しやすくなります。
■最終目標と支援者が意識したい視点
最終的な目標は、速さではなく、安定した視線で対象を追い続けられることです。ビジョントレーニングは、結果を急ぐものではありません。トレーニングは「正しく続ける」ことが重要であり、無理がある方法は定着しません。トレーニングは訓練、というイメージから、より速くやる、より難しい課題に取り組む、より長時間やるといった意識は厳禁です。
ビジョントレーニングはひとつの手段であって目標ではありません。ビジョントレーニングを通じて、困りごとにプラスの変化が現れるかが大事です。子供たちは、小さな成功体験を積み重ねることで、自然と上のレベルをめざすようになるものです。支援者の皆さんには、子供の発達段階や特性に寄り添いながら、無理のない工夫を重ねていただきたいと思います。
※この記事は、情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や助言を行うものではありません。必要に応じて、医師や専門家にご相談ください。
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