子供のみえにくさ

子供の“見えにくさ”を見抜く力 発達支援の指導者のためのアセスメント(評価)の基礎

子供は自分の“見えにくさ”に気づけません。特に発達の凸凹を持つ子供では視覚機能の弱さが学習や行動の困難につながることが多く、支援者が早期に気づくことが重要です。

このブログ記事では、現場でできる視覚機能のアセスメントの基礎と、改善に役立つビジョントレーニングの考え方を説明します。支援の質を高めるための必須ポイントをまとめています。


こんにちは、ビジョントレーナー育成講師の田村です。

私は、これまで多くの現場や家庭と関わってきました。その中で強く感じるのは、「見えているようで、実は十分に見えていない」子供が予想以上に多いことです。特に発達の凸凹がある子供では、その割合がさらに高いと言われています。子供の“見えにくさ”は、学習の難しさ、行動のつまずき、生活スキルの不安定さなど、幅広い困りごとにつながっています。

しかし、子供自身はそのことを言葉で説明できません。そもそも自分がどの程度見えているのかの基準を知らないためです。「黒板がぼやける」「文字が動いて見える」と訴えられる子は少数で、多くは黙ったまま困り続けています。だからこそ、周囲の大人が気づき、見抜く力を身につけることが求められると思います。

このブログ記事では、発達支援や療育、特別支援教育の現場で役立つ「視る力のアセスメント(評価)」をテーマに、支援者が押さえるべき基礎知識と、改善につながるビジョントレーニングについてお伝えします。

子供のみえにくさ


■ 視覚機能=視力ではない

支援者にまず理解してほしいポイントは、

① 視力(静止視力)がいちばん大事だという点。
いくつかの視覚機能がある中で、視力はそれらの土台となるものです。

② “視力が良くても見えているとは限らない”という点。
視覚機能は、目から情報を受け取り、脳で理解し、行動へつなぐ、一連の働きを示す総合力です。

まずは視力が大事ですが、「視覚機能=視力」ではありません。

主な視覚機能には次のものがあります。

<眼球運動>
視線を滑らかに動かし、必要な位置に素早く合わせる力です。読み飛ばしや書き写しのズレに大きく関係します。

<ピント調節>
遠くと近くを切り替える力です。黒板とノートの視線移動が苦手な子は、ここに弱さがある場合があります。

<両眼視>
左右の目で同じ対象を正しく捉える力です。ここが弱いと疲れやすさ、姿勢の崩れ、体の使いにくさにつながります。

<視覚情報処理>
形を認識したり、位置関係を理解したりする力です。図形の理解、書字、片付けの苦手さなどとも関連します。

<目と手の協応>
見た情報をもとに手を動かす力です。書字、手元の作業、運動・スポーツなど多くの動作に影響します。

発達障害、学習障害、グレーゾーンの子供に見られる行動特性の中には、この視覚機能の弱さが背景にあるケースが少なくありません。支援者には、視覚機能の基本を理解し、そこに目を向けていただきたいと思っています。


■ アセスメント(評価)が支援の質を高める

視覚機能のアセスメントとは、視力検査だけではわからない子供の“見る力”の実態を捉えるための評価です。「難しそう」「専門的すぎる」と感じる方も多いのですが、実際には現場でできる簡単な観察方法がたくさんあります。

アセスメントの要点は次の3つです。

① 評価すべき「見る力の種類」を知る
子供の行動の背景にどの力が関係しているのかが見えてきます。

② 観察すべきポイントを知る
行が飛ぶ、姿勢が崩れる、目線が落ち着かないなど、日常のサインが重要です。

③ 実際の課題を通して確認する方法を知る
読み書き、模写、ボール遊びなど、日常的な課題が評価に役立ちます。

例えば、
・読み飛ばしが多い子の背景には、眼球運動の弱さがある場合があります。
・板書や写生が苦手な子は、ピント調節が弱いことが考えれます。
・図形が正しく写せない子は、空間認知や視覚情報処理の問題かもしれません。
・書字が大きく乱れる子は、目と手の協応が未熟なことが考えられます。

支援者がこうした「見立て」を持てるだけで、アセスメントは大きく前進します。

子供の見えにくさが引き起こす“行動サイン”


■ 見えにくさが引き起こす“行動サイン”

視覚機能の弱さは、行動として現れます。以下はよく見られるサインです。

・行が飛ぶ、読み返しが多い
・書き写しにとても時間がかかる
・文字の大きさや位置が安定しない
・図形の向きを正しく捉えにくい
・手元を見る時間が短く、すぐに視線が逸れる
・集中が続かず、姿勢がすぐ崩れる
・ボール遊びが極端に苦手
・黒板を見ると頭痛や疲労を訴える

これらの行動は、決して「やる気の問題」ではありません。身体の機能としての“見る力”に課題がある場合、どれだけ努力しても改善しにくいのです。この視点を持つことが、支援者にとって最も重要な姿勢ではないでしょうか?


■ 改善につながるビジョントレーニング

視覚機能は適切な働きかけによって改善が期待できます。ビジョントレーニングは、その代表的な方法です。

<眼球運動トレーニング>
スムーズな視線移動を促し、読み飛ばしを減らします。

<ピント調節力トレーニング>
遠近での焦点の切り替えを鍛え、黒板↔ノート間の移動がスムーズになります。

<両眼視トレーニング>
左右の目のバランスを整え、疲れにくい視機能を育てます。

<視空間認知トレーニング>
図形理解、位置関係、方向感覚を高めます。

<目と手の協応トレーニング>
書字や運動動作の質を向上させます。

ただし、正しいアセスメントなしにトレーニングだけを行うと、必要な力にピンポイントで働きかけることができません。評価と改善は常にセットで考えることが重要です。


■ アセスメント+改善を学ぶ意義

支援者がアセスメントを学ぶメリットは非常に大きいです。

  1. 子供の状態を根拠を持って理解できる
  2. どの機能を改善すべきかが明確になる
  3. 自分で判断でき、専門家につなぐタイミングがわかる
  4. 支援計画が具体化し、家庭との連携もスムーズになる

現場で子供の困りごとを「視覚機能の視点」で捉えられると、行動の理解が大きく前進します。そのため、ビジョントレーニングを学ぶ際は、トレーニングの方法だけでなく、アセスメント(評価・確認)+コンディショニング(改善・賦活) の両輪も学ぶことが不可欠だと考えています。


■ まとめ


子供の“見えにくさ”は、周囲の大人が気づかない限り見逃され続けます。支援者や教職員、保護者が視覚機能の基礎を知り、簡易アセスメントの視点を持つことで、子供の困りごとを根本から理解できます。その上でビジョントレーニングなどを組み合わせ、必要に応じて専門家と連携することが、効果的な発達支援へとつながると考えます。子供たちが自分らしく成長できるよう、見る力を正しく理解する大人が一人でも増えることを願っています。


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