ビジョントレーニングは、神経発達症(発達障害)やグレーゾーンの子供たちへの新たな支援方法として注目されています。年齢に制限はなく、見る力の改善は生涯可能です。ただし、視覚機能が未発達な5歳未満の子供には、屋外遊びなど自然な経験を優先することが重要です。ビジョントレーニングは困りごとを直接解決するものではなく、視覚機能を高める支援の一つです。指導者、教職員、保護者が正しい理解のもとで活用することが、より良い発達支援につながります。

■はじめに|年齢に関する質問はとても多い
こんにちは、ビジョントレーナー育成講師の田村です。
私はこれまで、指導者や教職員、保護者の皆さまに向けて、ビジョントレーニングを専門的に指導してきました。
その中で、指導者、教職員、保護者のいずれからも非常に多く受ける質問の一つが、ビジョントレーニングを神経発達症支援に活かす中で、
「何歳から始めるべきですか?」
「何歳まで効果がありますか?」
という年齢に関するものです。
このブログ記事では、神経発達症(発達障害)支援の視点から、ビジョントレーニングの適正年齢の考え方に加えて、「年齢が合っていても実施すべきでないケース」や、専門家へつなぐ判断の重要性について整理してお伝えします。
■神経発達症とビジョントレーニングの広がり
神経発達症とは、いわゆる発達障害を含む概念です。注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などが含まれます。
近年では、診断の有無にかかわらず、「グレーゾーン」と呼ばれる発達の凸凹を持つ子供も増えています。
こうした子供たちは、「見る力」視覚機能の問題を抱えていることが多いと言われています。生活や学習上の困りごとの克服や改善への期待から新たな支援方法として、ビジョントレーニングが注目されるようになりました。
■神経発達症の学習や生活の困難と「見る力」の深い関係
神経発達症は、発達障害や学習障害を含む広い概念です。診断の有無にかかわらず、発達の凸凹を持つ子供は少なくありません。
・読み書きが苦手
・板書を写すのが遅い
・運動が不器用
・集中が続かない
これらの困りごとの背景には、視覚機能、つまり「見る力」の弱さが関与しているケースがあります。見る力とは、単なる視力だけではありません。目と脳が連携して情報を処理する力の総称です。
■ビジョントレーニングとは何か
ビジョントレーニングは、もともとスポーツ選手のパフォーマンス向上を目的に、スポーツ分野で研究、開発されてきたトレーニング方法です。
ビジョントレーニングは、視力を上げる訓練ではありません。動くものを追うための動体視力、瞬時に判断するための眼球運動、空間を正確に把握するための空間認知能力といった視覚機能を高めます。
神経発達症支援においては、「眼球運動、視線の安定、両眼を協調して使う力など、「見る力」を構成する視覚機能を整える支援です。
見る力」を整えることで、学習や生活の土台を支える役割を担うことから、ビジョントレーニングの特性が、神経発達症の支援にも応用されるようになりました。
■ビジョントレーニングが年齢を問わず取り組める理由
ビジョントレーニングの大きな特長は、年齢にかかわらず「見る力」を改善・向上できる点にあります。
視覚機能は、使い方次第で生涯にわたり改善・向上が可能です。そのため、理論上は年齢制限がないと言えます。
実際に、成人はもちろん、80代や90代の高齢者であっても効果を実感する方が少なくありません。
■視覚機能の発達と年齢の目安
一方で、子供たちには段階があります。視力(静止視力)が成人と同程度に発達するのは、おおよそ6歳前後、就学ごろだと言われています。
さらに、両眼視や眼球運動など複数の視覚機能が整うのは、10歳から12歳頃が目安とされています。
そして、視覚機能がピークに達するのは概ね18歳前後で、そこから加齢とともに少しずつ衰えて行きます。この発達過程を知っておくことが重要です。

■就学前のへの考え方
視覚機能の発達段階を踏まえると、就学前の低年齢層の子供に対して、一般的なビジョントレーニングを行うことは、適切ではないと考えています。
理由は、視力(静止資料)が発達途中、かつ他の視覚機能が整う前の段階であり、「鍛える」段階ではありません。無理にトレーニングを行う必要はありません。
この時期は、主に屋外遊びを通じて、自然に目を使う経験を積むことが最優先です。
砂場遊び、遊具を使った遊び、鬼ごっこやボール遊び。これらはすべて視覚機能を育てる活動でもあります。遠くを見る、動くものを追う、距離感をつかむといった経験が自然に得られます。
この時期に必要なのは、トレーニングではなく「経験」のための環境づくりです。
・屋外で遊ぶ。
・体を動かし、距離や動きを感じる。
・自然に目と体を連動させる。
こうした遊びこそが、視覚機能の発達を支える最大の支援になります。指導者や保護者の皆さんには、「遊び=発達支援」という視点が大事だと考えます。
■何歳までが適正かという問いへの答え
「何歳までビジョントレーニングは有効ですか?」この質問への答えは、明確です。
年齢の上限については、特に制限はありません。
小学生、中学生、高校生、さらには大人になってからでも「見る力」は改善が可能です。理解力が高まる年齢では、本人の理解と納得を得て、目的を共有しながら進めることで、
より効果的な支援につながります。
■適正年齢でも「やるべきでない」ケース
適正年齢であっても、ビジョントレーニングを行うべきでないケースが存在します。
第一に、強い拒否感がある場合です。
無理に行うと、支援そのものが負担になり、自己肯定感を下げてしまうことがあります。
第二に、困りごとの主な原因が視覚以外にある場合です。
認知面や心理面、あるいは環境面への支援などを優先すべきケースです。
第三に、目的が不明確なまま導入される場合です。
「何となく良さそうだから、とりあえずやる」では効果は期待できません。
■医師や専門家につなぐ判断の重要性
ひとつ、非常に大切なことをお伝えします。
言うまでもありませんが、支援を進める中で、ビジョントレーニングだけでは対応できないケースもあります。(その方が多いかと推察します。)
視覚機能の問題が疑われる場合でも、眼科的な疾患が背景にあることがあります。また、発達全体の評価が必要な場合もあるでしょう。
子供たちの状態を常に観察、確認できる立場にいる支援者の方々だからこそ現場や家庭での気付きをもとに、医師や専門機関につなぐ判断は、とても重要で有効なはずです。
時には、「行わない」「専門家につなぐ」という判断も、重要な発達支援の一つではないでしょうか。
■指導者・教職員・保護者に持っておいて欲しい視点
もうひとつ、非常に大切なことをお伝えします。
ビジョントレーニングは万能ではありません。
困りごとを直接解決する魔法ではありません。
改善されるのは、あくまでも「見る力」視覚機能です。神経発達症の困りごとを、直接的に解決するものではないのです。
見る力が改善すると、視覚情報の入力がスムーズになることで脳の働きが活性化し、認知力や判断力の向上が期待できます。学習や行動が安定する可能性が高まります。
ただし、必ず成果が出るとは限りません。過度な期待は禁物です。
学習支援、環境調整、心理的サポート。それらと組み合わせて活用することが重要です。指導者、教職員、保護者の皆さんには、ビジョントレーニングをあくまでも「支援の一部」と捉える視点を持っておいてください。
■まとめ|年齢よりも「今の状態」を見る視点
ビジョントレーニングの適正は、年齢だけでは判断できません。その子が今、どの段階にいて、何に困っているのか。どの支援が今、必要なのか。そこを見極めることが、本当の発達支援につながると思います。
また、ビジョントレーニングに、明確な年齢の制限はありません。ただし、就学前の低年齢期には自然な遊びを重視し、発達段階に応じた支援が必要です。
見る力は、学習や生活の土台となります。その重要性を理解したうえで、現実的な期待を持って、丁寧に活用していきたいものですね。
※この記事は、情報提供のみを目的としています。医学的なアドバイスや診断については、専門家にご相談ください。
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